「どの項目を書けばいいのか」「記入漏れがあったらどうなるのか」という不安を抱えながら、労働条件通知書を毎回一から作成している総務担当者は少なくありません。このページでは、法律が求める記載事項の具体的な書き方から、ミスが起きやすい箇所・デジタル化への対応・効率化の手順まで、実務に使える形でまとめています。
労働条件通知書は、労働基準法第15条に基づき、使用者が労働者を採用する際に労働条件を書面(または一定の要件を満たした電磁的方法)で明示するために作成する書類です。雇用形態を問わず、正社員・パート・アルバイト・有期雇用労働者のいずれに対しても、雇用契約の締結時・更新時に交付する義務があります。
交付のタイミングは「雇入れ時」とされており、実務的には入社初日よりも前、遅くとも雇用契約の締結と同時に交付するのが安全です。口頭での説明だけでは義務を果たしたとはみなされないため、書類として残すことが前提になります。パートタイム・有期雇用労働者については、パートタイム・有期雇用労働法(パート有期法)の規定も重なり、追加で明示すべき事項があります。
交付を怠ったり記載事項が不足していたりした場合、労働基準法違反として30万円以下の罰金が科される可能性があります。また、後から「聞いていなかった」とトラブルになるリスクも高まります。書類の存在自体は多くの企業が把握していますが、記載内容の細部まで正確に書けているかどうかは、改めて確認する価値があります。
労働条件通知書に必ず記載しなければならない「絶対的明示事項」は、厚生労働省の示すモデル様式をもとにすると主に次の10項目になります。①労働契約の期間、②就業の場所・従事する業務の内容、③始業・終業の時刻・所定労働時間を超える労働の有無・休憩時間・休日・休暇・交替制に関する事項、④賃金の決定・計算・支払いの方法、⑤賃金の締め日・支払日、⑥退職に関する事項(解雇事由を含む)、⑦昇給に関する事項、⑧退職手当の有無と計算方法(該当する場合)、⑨臨時に支払われる賃金・賞与(該当する場合)、⑩労働者に負担させる食費・作業用品など(該当する場合)です。
③の「所定労働時間を超える労働の有無」については、「有」と書くだけでなく、36協定の上限時間との整合が取れているかどうかも確認が必要です。④の賃金欄は、基本給・各種手当の金額を個別に書き分けることが求められており、「月給25万円」とだけ記載して内訳を省略すると、手当の性質をめぐるトラブルの原因になります。⑥の退職事由については、「一身上の都合」「会社都合」といった区分だけでなく、解雇事由として就業規則の該当条項番号を記載するか、条文を写す方法が一般的です。
有期雇用労働者には、上記に加えて「更新の有無」「更新する場合またはしない場合の判断基準」の明示も必要です(労働契約法・パート有期法)。2024年4月施行の労働条件明示ルールの改正(厚生労働省告示・省令改正)では、有期雇用者への「通算契約期間または更新回数の上限」の明示と、無期転換ルールに関する情報提供が新たに義務付けられています。2024年4月以降に締結・更新する契約については、この点を見落とさないよう注意が必要です。
実務でよく発生する記入漏れのパターンを確認しておきます。最も多いのは「休暇の種類が年次有給休暇のみで、育児・介護休暇の記載がない」ケースです。法定の年次有給休暇は必須ですが、育児休業・介護休業・子の看護休暇なども就業規則に定めがあれば記載対象になります。次に多いのは「賃金の内訳が不明確」で、基本給と諸手当の区分が曖昧なまま合計額だけを書いているパターンです。残業代の計算基礎となる額が不明確になり、後から未払い残業代の算定でトラブルになりやすいです。
「就業場所・業務内容に変更の可能性がある場合の明示漏れ」も2024年4月改正で新たに義務付けられた項目です。「雇入れ直後」の就業場所・業務内容だけでなく、「将来変更になり得る就業場所・業務の範囲」の明示が求められるようになりました。テンプレートを2023年以前に作成したまま更新していない企業では、この欄が丸ごと抜けているケースが見受けられます。
数字のミスも頻発します。賃金の締め日・支払日の記載が就業規則の記載と一致していない、所定労働時間の合計が休憩時間を差し引いた後の数字になっていない、といったズレは校正しにくい部分です。担当者が変わるたびに別のテンプレートを使い、更新履歴が管理されていない企業ほどこうした不整合が蓄積しやすい傾向があります。
労働条件通知書を作成・交付する前に、次の項目を確認してください。各項目は「確認できた」「要修正」「該当なし」のいずれかで判定します。 【書類の設計・テンプレート】 □ 直近の法改正(2024年4月)に対応したテンプレートを使用しているか □ 正社員用・パート有期用・有期雇用(更新あり)用と、雇用形態別にテンプレートが分かれているか □ 就業規則と賃金規程の最新版(施行日・版番号)に基づいて作成しているか 【記載内容の確認】 □ 賃金欄に基本給・各手当の内訳が個別に記載されているか □ 所定労働時間・休憩時間・休日の記載が就業規則と一致しているか □ 時間外労働の有無が明記され、36協定の上限と矛盾していないか □ 退職・解雇事由が就業規則の条項番号と対応しているか □ 有期雇用の場合、更新の有無・判断基準・通算期間の上限が記載されているか □ 2024年4月改正対応:将来変更になり得る就業場所・業務の範囲が明示されているか □ 無期転換ルールに関する情報(通算5年・転換申込権発生の案内)が付記されているか 【交付方法・保管】 □ 本人への交付(書面または本人が同意した電磁的方法)が雇用契約締結と同時または前に行われているか □ 交付済みの記録(控え・受領確認)を会社側が保管しているか □ 更新時に旧版と差し替えるのではなく、版管理(日付・版番号)で履歴を残しているか
2019年4月の省令改正により、労働者本人が希望した場合に限り、電子メール・PDF送付・クラウド上の文書共有などの電磁的方法で労働条件を明示することが認められるようになりました。ポイントは「労働者の希望」が条件になっている点で、会社側の都合だけでデジタル交付に切り替えることはできません。同意を取る方法・同意の記録の残し方も整備しておく必要があります。
電子化のメリットは、テンプレートの版管理が容易になる点、交付記録がシステムに残る点、複数拠点・リモート入社での配付が効率化される点です。一方で注意したいのは、PDFで送るだけでは「本人が確認・受領した」という記録が残りにくいことです。電子署名・クラウドサービス上の受領確認機能・返信メールの保存など、受領の証跡を取る仕組みを同時に設計することが重要です。
番頭では、登録している従業員の基本情報(雇用形態・賃金・所定労働時間など)を呼び出して、労働条件通知書の各欄への反映状況を整理する補助ができます。手動で複数の書類に同じ数字を転記することで起きる転記ミスを減らし、担当者が変わっても同じ情報から作成できる状態を維持しやすくなります。
従業員数が10名未満で採用頻度が年1〜2回程度であれば、厚生労働省が公開しているモデル様式(Word形式・無料)をベースに手作業で作成する方法でも対応可能です。ただし、テンプレートを毎年法改正に合わせて更新する手間と、複数の書類に同じ情報を転記する際のミスリスクは残ります。
採用が月1件以上ある、有期雇用の更新管理が必要、複数の雇用形態が混在している、といった状況では、情報を一元管理して書類への反映を自動化する仕組みの投資対効果が出やすくなります。番頭は、会社の就業規則・賃金体系・雇用形態ごとの条件をあらかじめ登録しておくことで、新たに雇用する際の条件整理や確認漏れのチェックを補助します。最終的な書類の内容確認と交付の判断は担当者・専門家が行う前提ですが、作業の起点となる情報の整理と抜け漏れ確認を効率化できます。
どちらの方法を選ぶ場合でも、「最新の法令に対応したテンプレートを使っているか」「就業規則との整合が取れているか」「交付記録が残っているか」という3点が実務の基本です。番頭への相談機能は、これらの確認ステップをスムーズに進める入口として使っていただけます。
サンプルの会社情報を覚えた状態での、回答のイメージです。数値や規程の内容は説明用の例です。 番頭の答えは一般的な情報の整理であり、個別の法的助言ではありません。
今度パートを2名採用するのですが、正社員と同じ様式の労働条件通知書を使い回してもいいですか。
登録されている御社の雇用形態区分を確認すると、正社員と有期パートでは記載が必要な項目が異なります。パートタイム・有期雇用労働者には、更新の有無・更新の判断基準・通算契約期間の上限・無期転換ルールに関する情報の明示が追加で必要です。また2024年4月改正により、将来変更になり得る就業場所・業務範囲の記載も求められています。正社員用の様式をそのまま使うと、これらの欄が抜ける可能性があります。パート有期用の別様式を用意するか、正社員用様式に欄を追加する形で対応するのが一般的です。内容の最終確認は社会保険労務士などの専門家にご相談されることをお勧めします。
賃金欄に「月給25万円」とだけ書いていましたが、これで問題ありませんか。
登録されている御社の賃金規程を参照すると、基本給・役職手当・通勤手当など複数の手当が設定されています。労働条件通知書の賃金欄には、基本給と各手当の金額を個別に記載することが求められており、合計額だけの記載は内訳が不明確とみなされる可能性があります。残業代の計算基礎となる「割増賃金の基礎となる賃金」の範囲にも影響するため、手当ごとの金額と計算方法を明記する形に修正することをご検討ください。具体的な記載方法は、ご利用の賃金規程と照らし合わせながら専門家にご確認いただくと安心です。
有期雇用の社員を3回更新していますが、通算5年を超える前に何か書類の記載を変えるべきですか。
登録されている御社の有期雇用管理情報を確認すると、該当者は現在通算3年6か月に達しています。無期転換ルールでは、同一使用者との間で通算契約期間が5年を超えた場合、労働者が申し込みをすれば無期転換できます。2024年4月改正により、更新時に発行する労働条件通知書(または雇用契約書)には、無期転換申込権が発生するタイミングの案内を記載することが義務付けられています。次回更新時の書類には、この情報を追加する必要があります。具体的な案内文の書き方は厚生労働省の示す記載例を参考にしつつ、専門家にご確認されることをお勧めします。
どちらか一方で代替することも実務上は可能です。雇用契約書に法定の明示事項をすべて盛り込んで双方が署名・押印する形式であれば、別途労働条件通知書を用意しなくても法定の明示義務を果たしたとみなされるケースが一般的です。ただし、雇用契約書の記載内容が法定の明示事項を網羅しているかどうかを確認する必要があります。自社の書式が要件を満たしているかは、社会保険労務士などの専門家にご確認ください。
誤りが判明した場合は速やかに正しい内容の書類を再交付し、労働者に説明のうえ確認を取ることが望ましい対応です。ただし、既に雇用契約が成立している場合は労働条件の変更を伴うケースもあり、一方的な訂正が認められない状況もあります。訂正の範囲や手続きについては、状況に応じて専門家への確認をお勧めします。なお、このページおよび番頭は一般的な情報提供を目的としており、個別の書類作成代行や法的助言を提供するものではありません。最終的なご判断は社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
電磁的方法による明示は、労働者本人の同意を得ることが前提です。同意なく会社側の都合だけでデジタル交付に切り替えることはできません。また、メールでPDFを送付するだけでは「受領した」という記録が残りにくいため、受領確認の返信を保存する、電子署名サービスを利用する、クラウド上の確認機能を活用するなど、受領の証跡を残す仕組みを合わせて設計することが実務上は重要です。
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