顧客からの暴言・脅迫・過度な要求に対して、就業規則にどう定めれば従業員を守れるのか。この記事では、カスタマーハラスメントの就業規則記載例として整備すべき5つの条項と、中小企業が自社にあわせて調整するための実務ポイントをお伝えします。
2024年4月施行の改正労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法の関連指針)では、事業主がカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)対策を講じることが求められるようになりました。厚生労働省の指針では、顧客・取引先等からの著しい迷惑行為についても、使用者が雇用管理上の配慮をするよう促されています。
就業規則にカスハラ条項を置く最大の意義は、会社として対応の正当性を文書で担保できる点です。たとえば、悪質な顧客への対応を途中で打ち切る、警察や弁護士に相談する、といった判断を従業員が迷わず取れるようにするためには、就業規則に根拠規定がある状態が出発点になります。規定がなければ、現場の担当者が独断で動いていると誤解されるリスクもあります。
また、就業規則に定義と手順を明文化することで、新入社員への説明コスト・担当者交代時の引き継ぎコストも下がります。カスハラ対応の判断軸を属人化させないための仕組みとして、就業規則の整備は実務上の効果が高いと言えます。
就業規則にカスタマーハラスメント対策を盛り込む場合、少なくとも次の5つの条項を設けることを検討してください。条文はあくまで記載例であり、自社の業態・規模に応じて専門家と調整することをお勧めします。
【条項1:定義】『本規則において、カスタマーハラスメントとは、顧客、取引先その他の社外の者が行う次の行為をいう。①身体的・精神的な攻撃(暴言、脅迫、侮辱的言動)②過大または不合理な要求(謝罪の強要、金品の要求、長時間の拘束)③その他、従業員の就業環境を著しく害する行為』定義を置くことで、何がカスハラに該当するのかの解釈の幅を絞れます。業種によっては医療機関向け指針や小売業向け事例集を参考に、典型例を()書きで追記するとより明確になります。
【条項2:会社の基本方針と従業員の保護義務】『会社は、カスタマーハラスメントから従業員を保護するために必要な措置を講じる。従業員が誠実に対応した結果として顧客との関係が悪化した場合も、会社はその従業員を不利益に取り扱わない。』この条項が、現場担当者が対応を打ち切る・上司に引き継ぐといった判断をしやすくする根拠になります。
【条項3:相談窓口と報告義務】『カスタマーハラスメントを受けた従業員は、所属長または人事担当窓口に報告するものとする。会社は相談者・報告者のプライバシーに配慮し、相談を理由とした不利益取り扱いを禁止する。』報告義務と保護規定をセットで置くことがポイントです。相談を受けた側(所属長・窓口担当)の守秘義務も明記しておくと運用がスムーズになります。
【条項4:対応フロー】『会社は、カスタマーハラスメントの報告を受けた場合、事案の確認・記録、当事者からの事情聴取、対応方針の検討(謝罪・返金の可否、対応打ち切り、警察・法律専門家への相談等)、再発防止策の実施、を順に行う。』フローを就業規則本体に詳細に書くと改定のたびに手間がかかるため、概要だけ就業規則に置き、詳細は別途「カスタマーハラスメント対応マニュアル」として整備する方法が実務上は扱いやすいです。
【条項5:懲戒規定との連動と記録保持】『従業員がカスタマーハラスメントへの対応に際して虚偽の報告をした場合、または報告された案件を正当な理由なく放置した場合は、懲戒処分の対象となることがある。なお、会社はカスタマーハラスメント事案に係る記録を○年間保存する。』懲戒規定と連動させることで、対応放置の抑止効果が生まれます。保存期間は労働関係書類に準じて3年を一つの目安とする考え方もありますが、最終的な期間設定は事業の実態と専門家の助言に基づいてください。
第1のポイントは、業種・接客形態に応じた定義の具体化です。小売・飲食では長時間の居座りや土下座要求が典型的な問題行為になります。医療・介護では患者・利用者家族からの行為が多く、対応を途中で打ち切ることに心理的ハードルが伴います。業種の実態に合わせて、定義の括弧書きに具体例を追記することで、現場での判断がしやすくなります。
第2のポイントは、外部機関との連携規定の有無です。警察への通報・顧問弁護士への相談を就業規則レベルで会社の公式対応として位置づけておくと、担当者が個人判断のように見えるリスクを防げます。特に脅迫・器物損壊を伴う事案では初動の対応根拠が重要です。『警察・弁護士との連携を含む対応を会社として行う』旨を明記しておくことを検討してください。
第3のポイントは、パート・アルバイトへの適用範囲の明確化です。パートタイム・有期雇用労働法上、パート・アルバイトにも就業規則の規定内容を周知する義務があります。正社員向けの就業規則にカスハラ条項を置くだけでなく、パート用就業規則にも同等の規定を盛り込むか、共通適用規定として整理するか、を確認してください。
就業規則に条項を置くことはスタート地点であり、実際の効果を生むには運用の仕組みが必要です。具体的には、①カスタマーハラスメント対応マニュアル(就業規則と連動)、②従業員向けの周知・研修(規定の存在と相談窓口の認知)、③相談記録のフォーマットと保管場所、の3点が最低限必要です。
特に相談記録の管理は、後日のトラブル対応(顧客側からのクレーム・労働者側からのメンタル不調の因果関係の説明)で証跡として機能します。日時・対応者・発言内容・取った対応を残す習慣を定着させるためには、記録フォーマットを用意して報告の都度入力できる仕組みを整えるのが現実的です。
番頭では、日々の相談・報告を記録として蓄積し、対応件数や未処理案件の状況を集計する補助ができます。就業規則の条項と実際の運用をつなぐ記録管理の部分で、担当者の手間を減らすことを目的としています。
番頭は、あなたの会社の就業規則の内容・従業員構成・業種の前提を登録しておくことで、カスハラ関連の相談や報告が来た際に、自社の規定に照らした整理の補助ができます。たとえば『この事案は就業規則の第○条のどの類型に近いか』『対応フローの次のステップは何か』といった確認を、担当者が一人で悩まずに番頭に問いかける使い方ができます。
就業規則の改定が必要なタイミング(新しいカスハラの類型が増えた、業種指針が改訂された等)の際も、登録済みの現行規定との差分を確認しながら検討を進めることができます。もちろん、最終的な規定の妥当性判断・書類作成は社会保険労務士や弁護士に委ねることが前提ですが、整理の段階を効率化する補助として活用できます。
月次または四半期ごとに相談件数・対応結果を集計することで、カスハラが多い時間帯・部署・顧客属性の傾向が見えやすくなります。就業規則を整備した後の実態把握フェーズを番頭でサポートすることが、中長期的な職場環境改善につながります。
サンプルの会社情報を覚えた状態での、回答のイメージです。数値や規程の内容は説明用の例です。 番頭の答えは一般的な情報の整理であり、個別の法的助言ではありません。
うちの会社はカスハラの就業規則記載例を今から作るんですが、どの条項から手をつければいいですか?パート従業員が多い小売業です。
ご登録の業種(小売)とパート従業員比率を踏まえると、優先度が高い順に整理できます。まず定義条項(何がカスハラか)と保護規定(対応した従業員を不利益に扱わない旨)を先に置くことが出発点になります。次にパート用就業規則へも同等の規定を盛り込むか共通適用とするかを確認する必要があります。懲戒との連動は規定の整合を確認してからになるため、社労士との調整が入る前に番頭で現行の懲戒規定の条文を一覧として確認しておくと話が早くなります。最終的な条文の妥当性は専門家に確認いただく前提で、まず現行規定の棚卸しから進めましょうか。
顧客から長時間電話で怒鳴られ続けるケースが月に数件あります。就業規則に対応打ち切りの根拠を入れたいのですが、どう書けばいいですか?
登録済みの就業規則の現行条文を確認すると、現時点ではカスハラに関する明示規定はない状態です。対応打ち切りの根拠を置くには、まず定義条項で『長時間の拘束・繰り返しの要求』を典型例として列挙し、続いて会社が対応継続の可否を判断できる旨の規定を設けることが一つの方向性です。記載例としては『会社は、顧客の行為が本規則のカスハラの定義に該当すると判断した場合、対応を終了または制限することができる』といった形が考えられます。具体的な文言の適法性・妥当性は社会保険労務士または弁護士にご確認ください。番頭では現行条文との整合確認と記録のサポートを続けます。
現時点(2025年時点)では、カスタマーハラスメント対策を就業規則に明記することそのものを義務付ける法律はありません。ただし、厚生労働省の指針では事業主が雇用管理上の配慮をとることが求められており、就業規則への記載はその配慮の具体的な手段として有効です。2024年以降、業種別のカスハラ対策指針の整備が進んでいるため、今後の法改正の動向も継続して確認することをお勧めします。
この記事の記載例はあくまで一般的な情報提供を目的としたものです。就業規則は会社ごとの業種・規模・既存規定の内容によって適切な条文が異なりますし、既存の懲戒規定・服務規程との整合性も確認が必要です。記載例を参考資料として活用しながら、最終的な規定の内容については社会保険労務士や弁護士に確認することを強くお勧めします。番頭は整理・確認の補助ツールであり、書類作成代行や法的助言を行うものではありません。
就業規則の変更は、労働基準法第89条・第90条に基づき、労働者代表の意見聴取と労働基準監督署への届出が必要です(常時10人以上の労働者を使用する事業場の場合)。周知方法は、事業場への備え付け・書面の交付・イントラネットへの掲載などが認められています。カスハラ条項を新設した際は、相談窓口の場所と連絡先もあわせて周知することが実務上は重要です。具体的な手続きの進め方は、事業場の規模・就業規則の形式によって異なるため、専門家に相談しながら進めることをお勧めします。
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