「カスハラの規定をつくりたいが、何を盛り込めばよいかわからない」という担当者のために、規定例として押さえるべき5つの必須項目と、小売・飲食・医療・コールセンター別の具体的な文例を整理しました。
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客・取引先などから従業員に向けられる、社会通念上許容される範囲を超えたクレームや言動を指します。暴言・長時間の電話拘束・SNSでの誹謗中傷・過度な謝罪要求・土下座の強要などが代表的な行為です。2022年に改正労働施策総合推進法の指針が示されて以降、顧客からのハラスメントに対しても事業主が配慮義務を負うことが明確になりました。さらに東京都は2024年10月にカスハラ防止条例を施行しており、今後は都道府県レベルでの条例整備が全国に広がるとみられています。
こうした動きを受けて、単に「クレーム対応マニュアル」を整備するだけでなく、就業規則や別規程として独立した『カスタマーハラスメント対策規定』を設ける企業が増えています。規定を整備することで、従業員が一人で抱え込まず組織として対応できる体制をつくり、精神的な被害の拡大を防ぐことができます。規定がなければ、どこまで対応すべきか・いつ上司に引き継ぐかの判断が従業員に委ねられ、バーンアウトや離職の遠因になります。
カスハラ規定に盛り込むべき内容は大きく5つに整理できます。①カスハラの定義と該当行為の例示、②従業員が取るべき初動対応と上司への報告義務、③組織としての対応フロー(担当者・引き継ぎ・警察・弁護士連携の条件)、④取引拒絶・連絡遮断など会社が取りうる対抗措置の明示、⑤規定違反への懲罰規定(社内向け)と相談窓口の設置、の5点です。
①定義と例示は規定の土台です。『暴言・脅迫・長時間拘束・不当な金銭要求・SNS投稿による名誉毀損など、社会通念上相当な範囲を超えると認められる言動』という表現が多く使われます。業種ごとに起きやすい行為(飲食なら入退店時の威圧、コールセンターなら長時間架電など)を例示しておくと、現場での判断が速くなります。②報告義務では、報告する書式・タイミング・報告先(直属の上司または人事)を明記します。③対応フローには、組織として対応に当たる旨を明確にし、従業員が単独で解決することを求めない姿勢を示します。④会社が取りうる対抗措置を明記することで、対応打ち切りの判断根拠が生まれます。⑤相談窓口と懲罰規定は、従業員保護と社内抑止の両面から機能します。
なお、規定を整備しても形式だけでは機能しません。定期的な研修・周知・規定の見直しサイクルを同時に設計することが、実効性を高める鍵です。
【小売・スーパー】『従業員に対し、大声での怒鳴り声・商品の投げつけ・長時間にわたる執拗なクレームなど、通常の販売活動の範囲を超えた行為を行った顧客に対しては、当社はサービスの提供を中断し、退店を求めることができる。従業員は当該状況を速やかに直属の上司に報告しなければならない。』
【飲食・ホテル】『顧客が従業員に対して侮辱的な言葉を繰り返す・土下座を強要する・食事内容に関して根拠のない金銭要求を行うなど、社会通念上の接遇範囲を超えると判断される場合、店長権限で対応を打ち切り、必要に応じて警察・弁護士に連携する。従業員はその場での謝罪を単独で継続することなく、上席者への引き継ぎを優先する。』
【医療・介護】『患者・利用者またはその家族から、従業員へのセクシャルな発言・暴力的な身体接触・診療拒否の要求が繰り返される場合、施設長または管理者は対応チームを編成し、組織として対応に当たる。重篤と判断した場合、警察への通報および顧問弁護士への相談を行う。』
【コールセンター】『オペレーターが架電中に脅迫・性的な言葉・30分を超える同一内容の反復クレームを受けた場合、スーパーバイザーへの引き継ぎを行い、場合によっては当社判断で通話を終了できる。当該架電者に対しては、その後の着信対応を別担当または書面対応に切り替えることができる。』
カスハラ対策規定は就業規則の附属規程として位置づけるか、就業規則本体のハラスメント防止規定に条文を追加する形で整備します。どちらの形式でも、就業規則と整合性を持たせることが重要です。就業規則に根拠条文がなければ、規定を別途作成しても対外的な根拠が弱くなります。
また、規定の周知義務も見落としがちな点です。労働基準法第106条では、就業規則の周知義務が定められており、附属規程についても同様の対応が求められます。デジタル化した規程ファイルをイントラネットに掲載する・入社時研修で必ず説明する・年1回の見直しと全従業員への再周知を行う、といった運用サイクルを規定内に書き込んでおくと、形骸化を防げます。
さらに、懲罰規定(社内向け)と顧客への対応方針(社外向け)を分けて整理することも重要です。社内向けは従業員の報告義務・相談権利・報復禁止を中心に、社外向けはウェブサイトや店頭掲示によるカスハラ防止への取り組み表明として使えます。後者は顧客へのけん制にもなり、発生抑止の効果が期待できます。
番頭は、会社の規模・業種・既存の就業規則の内容・過去に受けた相談・報告履歴を覚えた状態で、規定整備の検討をサポートします。たとえば『コールセンター部門でカスハラ報告が月に複数件出ている』という背景を登録しておくと、どの項目の規定が手薄か・対応フローのどこに抜けがあるかを整理する際の出発点として活用できます。
規定の素案づくりでは、5つの必須項目をもとに自社の業種や実態に合わせた文例の確認・修正の検討材料として番頭を使えます。また、研修の実施記録・相談件数の変化・報告フォームの運用状況を蓄積することで、規定が実際に機能しているかを継続的に把握する補助ができます。規定は一度つくって終わりではなく、法改正・条例改正・社内の実態変化に応じて更新し続けるものです。番頭はその更新サイクルを組織として管理する仕組みの一部として機能します。
サンプルの会社情報を覚えた状態での、回答のイメージです。数値や規程の内容は説明用の例です。 番頭の答えは一般的な情報の整理であり、個別の法的助言ではありません。
当社はコールセンターを運営していて、月に10件以上のカスハラ報告があります。今の就業規則にはハラスメント規定があるのですが、カスハラの対応フローが明記されていません。何から手をつければよいですか。
ご登録いただいているコールセンター業種・月10件超の報告状況をもとに整理します。まず就業規則のハラスメント規定条文を確認し、カスハラの定義と顧客が対象に含まれるかを確認するのが最初のステップです。含まれていない場合は条文の追加または附属規程の新設が候補になります。次に対応フローとして、①オペレーターの初動(引き継ぎ判断の基準・通話打ち切りの条件)、②スーパーバイザーの対応権限、③法的対応への移行条件を順番に整理します。番頭に登録済みの報告データがあれば、どの行為類型が多いかを確認し、定義の例示に反映できます。最終的な条文の適否は専門家への確認を組み込んでください。
小売店を5店舗運営しています。カスハラ規定をつくりたいのですが、退店要求や取引拒絶をどこまで明記してよいか迷っています。
登録済みの小売業・5店舗という前提で整理します。退店要求や取引拒絶は、会社として取りうる対抗措置として規定に明記することが一般的な実務対応です。記載の際は『社会通念上相当な範囲を超えると認められる場合に限る』という留保を条件として設けることで、恣意的な対応に見えないようにします。また、どの役職者が退店要求の判断をするかを明記し、従業員個人の判断に委ねない設計が重要です。複数店舗で統一運用するために、手順書と規定をセットで整備し、店長向け研修で説明する流れまで設計すると定着しやすくなります。具体的な文言の最終確認は専門家とすり合わせることをお勧めします。
就業規則本体への条文追加と、別規程(附属規程)の新設、いずれの形式も選択できます。附属規程として独立させると改定しやすく、周知・配布の管理もしやすくなります。どちらの形式でも就業規則の条文に根拠を設けることが重要です。形式の選択は会社の規模・就業規則の現在の構成・運用負担を踏まえて判断し、最終的な適否は専門家に確認してください。
番頭は、自社の業種・規模・報告状況などを踏まえて、規定づくりの検討材料となる整理や文例の参照をサポートします。一般的な情報の整理と素案の確認補助を目的としており、法的に確定した書類の作成代行や、規定の内容が適法かどうかの判定は行いません。実際に規定として採用する際には、専門家への確認を最終ステップとして組み込んでください。
就業規則およびその附属規程は、従業員が いつでも確認できる状態に置くことが求められています。具体的には、イントラネット・社内共有フォルダへの掲載、入社時研修での説明、年1回の全従業員への再周知などが一般的な対応です。さらにカスハラ規定の場合は、発生時の報告先・相談窓口を記したカードや掲示物を現場に置くと、実際の場面での活用率が上がります。定期研修の記録を番頭で管理することで、未受講者の把握や次回実施タイミングの確認に役立てることができます。
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