カスタマーハラスメント対策の義務化をめぐる法整備が進むなか、就業規則への明記を求められる場面が増えています。対策を後回しにすると従業員の離職や企業の信頼低下につながる恐れがあります。このページでは、規則文の作り方から運用の進め方まで、中小企業の実務目線で整理します。
2024年11月に成立した改正労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」の改正)では、職場における優越的関係を背景とした言動への対策義務の範囲が議論され、カスタマーハラスメント(カスハラ)についても事業主の雇用管理上の措置を求める方向性が明確になりました。厚生労働省は2023年にカスタマーハラスメント対策企業マニュアルを公表しており、就業規則への規定整備や相談窓口の設置を「望ましい取り組み」として位置づけています。
現時点(2025年)では、カスハラ対策の就業規則明記が即座に法的義務となっているわけではありません。ただし、東京都が2024年4月にカスタマーハラスメント防止条例を施行したように、自治体レベルでの義務化は既に始まっています。今後、国の指針改正や省令改正によって義務の範囲が広がる可能性が高いとされており、先手を打って規則を整備しておくことが、リスク管理の観点から有効です。
中小企業にとって重要なのは、『何かが完全に義務化されるまで待つ』という姿勢がリスクを高めるという点です。対策が遅れた企業では、悪質なクレーマーへの現場対応が属人化し、従業員が精神的に追い詰められても会社が守れない状況が生まれやすくなります。就業規則に明記することで、会社が組織として対応する姿勢を示すことができます。
カスハラ対策を先送りしたときのリスクは、大きく3つの層に分けて考えられます。第一は従業員への影響で、悪質な言動への対処を「個人の問題」として処理し続けると、心身の不調から休職・離職につながる事例が増えます。厚生労働省の調査では、カスハラを経験した労働者の約30%が「仕事を辞めたい」と感じたと報告されており、採用コストの上昇や技術の流出という形で経営に跳ね返ります。
第二は企業の法的リスクです。カスハラへの対応を怠り、従業員が安全配慮義務違反を主張して訴訟に至った場合、就業規則や相談窓口が未整備であれば企業側が不利な立場に置かれます。安全配慮義務(労働契約法第5条)は現行法でも既に課されており、カスハラもその対象に含まれると解釈されるようになっています。
第三は事業継続上のリスクです。カスハラ対応のルールがないと、現場スタッフは「どこまで我慢すればよいか」「いつ上司を呼べばよいか」の判断基準を持てません。その結果、顧客対応の質にムラが生じ、過剰なサービスを強いられ続けることもあります。ルールを明文化することは、むしろ顧客との健全な関係を守るためでもあります。
就業規則に新設または追加する項目として、厚生労働省マニュアルと実務上の観点から最低限必要とされるのは、①カスタマーハラスメントの定義(身体的攻撃・精神的攻撃・不当な要求など)、②会社の対応方針(会社として毅然と対応し従業員を守る旨の宣言)、③相談・報告フローの明示(誰に・どのタイミングで報告するか)、④悪質事案への対処方法(取引・サービス提供の打ち切りを含む)の4点です。
過剰規制として避けるべきは、現場の判断を縛りすぎる細かすぎる禁止事項です。たとえば「いかなる要望も断らない」という暗黙の慣習を規則化するような本末転倒な書き方や、法令で求められていない第三者機関への報告義務を一律に定めるといった運用コストの高い規定は必要ありません。就業規則の目的は現場が動ける基準を与えることであり、読めばわかる・使える文章にすることが先決です。
常時10人以上の従業員を雇用する事業場では、就業規則を作成して労働基準監督署に届け出る義務があります(労働基準法第89条)。既存の就業規則にカスハラ関連の規定を追加する場合も、変更届と意見書の提出が必要です。10人未満の事業場でも、規則文を整備しておくことで現場対応の基準が明確になり、トラブルが生じた際の記録と照合が容易になります。
就業規則へのカスハラ規定の追加は、次の手順で進めると整理しやすくなります。まず、現在の就業規則を開き、服務規律・ハラスメント防止の章を探してください。既にパワハラ・セクハラの条文があれば、同章に「カスタマーハラスメント」として1条追加するかたちが読みやすく、労働基準監督署への届け出も最小限の差替えで済みます。
次に、自社の業種・顧客接点の種類を確認します。来客対応が中心の小売・飲食・医療系と、電話・メール対応が中心のBtoB企業では、カスハラの発生場面が異なります。前者は「長時間の居座りや録音を前提とした威圧」、後者は「執拗な電話・メール・SNSでの要求」が典型です。定義条文に業種の実情に合った具体例を1〜2行加えると、現場が判断しやすくなります。
最後に、相談フローを図または箇条書きで社内に掲示し、就業規則の改定と並行して周知します。就業規則は周知して初めて効力を持ちます(労働契約法第7条)。就業規則を更新したことを全従業員に通知し、電子データまたは紙で閲覧できる状態を整えてください。このサイクル(改定→届け出→周知)を番頭に記録しておくと、次回の改定時に前回の経緯と照らし合わせて確認できます。
番頭は、就業規則の改定内容・届け出日・変更理由などを会社ごとに記録し、次回の相談時にその情報を前提として対話できる労務AIです。カスハラ対策の場合、たとえば「うちはどのハラスメント規定がまだ就業規則に入っていないか」「前回の改定から何が変わったか」といった確認作業を、一から整理し直すことなく進めやすくなります。
法改正や行政指針の更新があった際にも、登録済みの就業規則の状態と照らして「この部分の確認が必要かもしれません」という形で提案を受けられます。もちろん最終的な規則文の作成や法的判断は、社会保険労務士などの専門家に委ねる部分も残りますが、番頭を使うことで『どこから手をつけるか』の整理と、専門家への相談をスムーズにする準備が整います。
中小企業では、総務・経理・労務を兼任するケースが珍しくありません。番頭は、そのような体制でも就業規則の改定状況を記録として持ち続け、担当者が替わっても経緯を引き継げる仕組みとして活用できます。
サンプルの会社情報を覚えた状態での、回答のイメージです。数値や規程の内容は説明用の例です。 番頭の答えは一般的な情報の整理であり、個別の法的助言ではありません。
カスハラの条文を就業規則に追加したいのですが、うちは既にパワハラとセクハラの規定があります。どう整理すればよいですか?
登録いただいている御社の就業規則を確認すると、第〇条にハラスメント防止規定があり、パワハラとセクハラの定義・相談窓口・懲戒との関係が記載されています。カスハラについては同条に第3項として追加するか、隣接する形で第〇条の2を新設するのが読みやすい構成です。定義はまず『取引先・顧客等から受ける身体的・精神的攻撃または不当な要求であって、業務上の適正な範囲を超えるもの』という枠組みを置き、御社の業種に合った具体例(電話・来訪・SNSなど)を1〜2行補足するとよいでしょう。最終的な文言は社会保険労務士にご確認ください。
今すぐ義務ではないなら、急いで規則を変える必要はないですか?
現時点で国の法律による義務は厳密には未確定ですが、東京都条例は既に施行されており、厚生労働省マニュアルでの推奨レベルは明確です。御社の業種・所在地を確認すると、顧客接点が多い業態の場合、安全配慮義務(労働契約法第5条)の観点から対応が遅れると不利になる可能性があります。また、従業員がカスハラ被害を訴えた際に規則・相談フローが未整備だと、企業として守る姿勢を示す手段がなくなります。法的義務の完全施行を待つよりも、準備を先行させることをお勧めします。
国の法律(労働施策総合推進法)による義務化は、2025年時点では指針・推奨レベルの位置づけです。ただし東京都のように条例で義務化している自治体があり、今後国の指針改正によって対象が広がる見通しです。また、現行の安全配慮義務(労働契約法第5条)はカスハラ被害にも及ぶと解釈されるため、就業規則が未整備の場合は訴訟リスクが生じる可能性があります。本ページは一般的な情報提供であり、個別の法的判断や書類の作成代行ではありません。最終的なご判断は社会保険労務士等の専門家にご確認ください。
常時10人未満の事業場は労働基準法上の就業規則作成義務の対象外ですが、カスハラへの対応基準を社内文書として整えておくことは有効です。「どのような行為がカスハラに当たるか」「誰に報告するか」「会社はどう動くか」を文書化しておくだけで、現場の判断基準が生まれ、トラブル発生時の記録と照合がしやすくなります。また、従業員数が増えて10人を超える際にスムーズに届け出対応できるよう、早めに整備しておくことをお勧めします。
雛形を参考に社内で草案を作ることは可能ですが、就業規則は労使関係に直結する重要書類であるため、最終確認は社会保険労務士に委ねることをお勧めします。特に、既存の懲戒規定や服務規律との整合性、労働基準監督署への届け出手続き(変更届・過半数代表者の意見書)は、専門家の確認が安心です。番頭では、御社の既存規則の状態を踏まえた確認・整理を補助できますが、最終的な文書作成・提出は専門家の役割になります。
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