顧客からの不当な要求や迷惑行為に対して、企業が組織として動ける体制を整えるには、カスタマーハラスメント規程の例を参考にした文書化が第一歩です。ここでは規程に盛り込むべき6項目と、中小企業が実際に使えるひな形の考え方を順に整理します。
2022年に厚生労働省が公表した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」は、企業が雇用管理上の配慮として顧客からのハラスメントへ対処する必要性を明示しています。同マニュアルでは、長時間の拘束・暴言・SNSでの拡散脅迫・過剰な謝罪要求などを典型例として列挙しており、「お客様は神様」という慣習が従業員保護の観点から見直しを迫られています。
規程がなければ、現場担当者はその場の判断で対応するしかなく、過剰な謝罪や不当な値引き対応を一人で引き受けることになります。その結果として、メンタルヘルス不調による休職・退職が連鎖し、採用コストが増大するという実害が中小企業でも報告されています。規程を整備することで、対応の権限と手順を組織として明確にし、従業員が「会社が守ってくれる」と感じられる環境をつくることができます。
カスタマーハラスメント規程の例として参照される文書に共通して含まれる項目は、次の6つです。①定義(どのような言動がカスタマーハラスメントにあたるか)、②対象者の範囲(正社員・パート・派遣・業務委託など誰を守るか)、③相談・報告フロー(誰にどのタイミングで報告するか)、④会社の対応方針(担当者の交代・取引制限・法的対応の選択肢)、⑤記録管理(日時・内容・対応経過の文書化ルール)、⑥再発防止と見直しサイクル(定期的な規程の更新と事例の共有)です。
ひな形の骨格として、まず「定義」条項では行為の態様を列挙する方式が読みやすくなります。例えば『次の各号に掲げる行為をカスタマーハラスメントとする。一 正当な理由のない金品の要求または過剰な値引きの強要、二 業務時間外の繰り返し連絡または長時間の電話拘束、三 従業員に対する侮辱・暴言・脅迫に該当する言動、四 SNSや口コミサービスを用いた虚偽の情報拡散の示唆』のように、具体的な行為を列挙することで、現場の担当者が「これに該当するか」を判断しやすくなります。
「対応方針」条項では、段階的なエスカレーションを明記することが実務上のポイントです。初期対応は担当者が行い、継続・悪化する場合は上長が引き継ぎ、さらに続く場合は法人として警告文を送付し取引継続の可否を検討する、という3段階を条項化しておくと、担当者が一人で抱え込むことを防げます。
規程があっても相談フローが機能しなければ、条文は形骸化します。相談窓口は社内の人事担当者だけでなく、外部のEAP(従業員支援プログラム)機関や専門家への相談ルートも明記しておくと、担当者が「言いにくい」と感じる状況を緩和できます。相談を受けた側の守秘義務と、相談者への不利益取扱いの禁止も条項として入れておくことが重要です。
記録管理については、発生日・対応者・相談内容・会社の対応・結果の5項目を記録するシートを規程の別紙として添付する形が使いやすくなります。記録は少なくとも3年間保存することを条項で定め、同一顧客から複数回の申し入れがあった場合に傾向を把握できるようにします。この蓄積が、次の見直しサイクルで規程の改善材料として機能します。
カスタマーハラスメント規程は、既存の就業規則・ハラスメント防止規程・安全衛生管理規程と矛盾なく機能する必要があります。見落としやすいのは次の3点です。第一に、カスタマーハラスメントの相談窓口とパワハラ相談窓口が同一人物に集中していないか(一人に権限が集中すると機能不全になります)。第二に、対象者の範囲が就業規則の「従業員」定義と一致しているか(派遣社員や業務委託を含む場合は別途明記が必要です)。第三に、取引制限・法的対応を実施する際の意思決定権者が就業規則上の権限規程と整合しているか、という点です。
規程の新設にあたっては、既存の就業規則の変更手続き(労働者代表への意見聴取・労働基準監督署への届出)が必要になるケースと、既存規程の附則として位置づけることで手続きを簡略化できるケースがあります。自社の就業規則の構成と労働者数を確認したうえで、どちらの形式が適切かを判断することが先決です。
Kabauは、登録された自社の就業規則・雇用形態・これまでの相談事例を前提として、カスタマーハラスメント規程の構成案に関する質問に答えたり、既存規程との矛盾点を整理したりする補助を担います。担当者が「うちの就業規則ではパート社員の扱いがどうなっているか」「記録シートの項目はどれが最低限必要か」といった確認作業を都度行う手間を、登録済みの自社情報をもとに素早く整理できます。
運用開始後は、相談・対応事例の記録をKabauに蓄積していくことで、同一顧客からの繰り返し案件の傾向確認や、どの業務フローで発生頻度が高いかといった分析の補助も可能です。規程の年次見直しのタイミングで「過去1年の記録から改善が必要な項目はどれか」を整理する際の出発点として活用できます。担当者が規程の最終的な内容や法的効力を判断するうえでは、状況に応じて専門家への確認を組み合わせていただく形が安心です。
サンプルの会社情報を覚えた状態での、回答のイメージです。数値や規程の内容は説明用の例です。 就業規則AIの答えは一般的な情報の整理であり、個別の法的助言ではありません。
うちはパート社員が多いのですが、カスタマーハラスメント規程の対象者の範囲に自動的に含まれますか?就業規則の『従業員』の定義を確認してほしいです。
登録されている就業規則を確認したところ、『従業員』の定義条項(第◯条)はパートタイム労働者を含む形で記載されています。そのため、カスタマーハラスメント規程の対象者条項に『本規程の対象者は、就業規則第◯条に定める従業員(パートタイム労働者を含む)とする』と記載すれば、パート社員も自動的に含まれる整理になります。ただし、派遣社員については就業規則の定義外となるため、別途対象に含めるかどうかを明記する必要があります。最終的な規程の文言は専門家にご確認のうえ確定してください。
取引先からの過剰クレームが3件目になりました。今後の対応方針として、どの段階で取引制限を検討すべきか、規程の条項と照らし合わせて整理してほしいです。
登録されている対応フローを確認しました。現在の規程では、同一相手からの案件が2回目以降の場合は上長が対応を引き継ぎ、3回目以降は警告文の送付と取引継続の可否検討に移行するエスカレーション設計になっています。今回は3件目ですので、規程上は警告文送付と取引制限の検討段階に相当します。記録シートに本件の日時・内容・これまでの対応履歴を記載し、意思決定権者(就業規則上は◯◯部長)に上程する手順が次のステップです。法的対応に進む場合は専門家への相談を組み合わせてください。
現時点(2025年)では、カスタマーハラスメント対策を規程として整備することを企業に直接義務付ける法律は施行されていません。ただし、労働契約法第5条が定める安全配慮義務の観点から、顧客による迷惑行為から従業員を保護する体制を整えることは、使用者の責任として解釈される場面が増えています。東京都では2024年10月に『カスタマーハラスメント防止条例』が施行されており、都内に事業所を持つ企業は特に対応の実効性を問われやすい状況にあります。規程の整備は義務でないとしても、従業員保護と会社リスク管理の両面から早期に取り組む実益があります。
カスタマーハラスメント対策を独立した規程として新設する場合、その規程が就業規則の一部として扱われるかどうかによって手続きが変わります。常時10人以上の労働者を使用する事業場は就業規則の届出義務がありますので、カスタマーハラスメント規程を就業規則の附則・別規程として位置づける場合は、変更届の提出と労働者代表の意見書が必要になります。9人以下の事業場は届出義務がありませんが、内容を労働者に周知することは法的に必要です。自社の事業場規模と就業規則の構成を確認したうえで、手続きの要否は専門家にご確認ください。本記事は一般的な情報提供であり、最終的な手続き判断や書類の作成にあたっては、状況に応じた専門家への確認をお勧めします。
ひな形はあくまで項目の骨格と文例の参考として活用してください。実際に自社で使う規程として完成させるには、自社の業種・顧客層・既存の就業規則の構成・雇用形態の種類に合わせた修正が不可欠です。特に定義条項に列挙する行為の態様は、自社のサービス現場で実際に発生しやすい類型を優先して盛り込むと、現場担当者が判断しやすくなります。Kabauは登録済みの就業規則や雇用形態の情報をもとに、修正が必要な箇所の整理を補助できます。
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