カスタマーハラスメント(カスハラ)が深刻化するなか、就業規則への対策条項の整備は従業員を守るための最初の一手です。厚生労働省の指針を踏まえながら、盛り込むべき項目と実装の流れを整理します。
カスタマーハラスメントとは、顧客・取引先などから従業員に向けられる著しい迷惑行為を指します。暴言・長時間の拘束・過剰な謝罪要求・SNSでの誹謗中傷などが代表的な例です。厚生労働省が2022年2月に公表した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、カスハラを放置した場合に従業員のメンタルヘルス悪化・離職増加・生産性低下が生じると明示されており、会社として組織的に対応する必要性が示されています。
2024年4月には東京都が「カスタマーハラスメント防止条例」を全国初で成立させ、2025年4月に施行されました。都内の事業者には顧客等からの迷惑行為を防止するための措置義務が課され、他の都道府県でも類似の条例整備が進んでいます。こうした流れを受け、就業規則に明文規定を置くことが労務リスク管理の基本となっています。
一方、労働安全衛生法第3条(2019年改正・パワハラ防止指針の整備とも連動)は事業者に快適な職場環境の形成を義務づけており、顧客起因のストレスも含めた環境整備が事業者の責任範囲として解釈される流れが強まっています。カスハラ対応を就業規則に落とし込むことは、こうした法的要請への対応でもあります。
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(2022年2月公表)は、企業が取り組むべき対策を次の6点で整理しています。①カスハラの定義と会社方針の策定・従業員周知、②相談体制の整備(相談窓口の設置・担当者の指定)、③被害を受けた従業員へのケアとフォロー体制、④顧客対応の事前研修・対応マニュアルの整備、⑤記録・証拠保全の仕組み、⑥悪質なケースへの法的対応(警告・警察・法的措置)。この6点をそのまま就業規則の条項設計の骨格として使うことができます。
就業規則への落とし込みとしては、まず「第○条(カスタマーハラスメントへの対応方針)」という条文を設け、カスハラが発生した場合は組織として対応する旨を明示します。次に「第○条(報告・相談義務)」として、従業員がカスハラ被害を受けたとき速やかに上長または指定窓口に報告する義務を定めます。さらに「第○条(被害従業員の保護)」として、報告者が不利益を受けないことを担保する条文を置くことが重要です。
厚生労働省は同マニュアルで、会社として『毅然と対応する』姿勢を社内外に示すことが従業員の安心感につながると説明しています。就業規則に明文化することは、こうした姿勢を制度的に担保する手段です。
就業規則への実装は、大きく「防止措置」「報告・相談体制」「懲戒規定」の3グループで設計します。防止措置の条項では、会社がカスハラを許容しない旨の方針と、対応窓口・対応責任者の設置を定めます。条文例としては『会社は、顧客等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)に対し、組織として対応する方針を定め、従業員が安心して就業できる環境を整備します』のような形が一般的です。
報告・相談体制の条項では、従業員がカスハラを受けた場合の報告義務と、会社による記録保全の義務を明記します。あわせて、報告した従業員に対し不利益な取り扱いを行わないことを同条文に盛り込むことで、報告しやすい環境を担保できます。記録は日時・場所・言動の内容・対応者名を含めた書面または電子記録として残すことが望まれます。
懲戒規定については、カスハラを行った第三者(顧客・取引先)への法的措置を定めるのではなく、社内の従業員が虚偽報告を行った場合や相談対応を怠った管理職の責任を懲戒条項に組み込む形が実務的です。東京都カスタマーハラスメント防止条例(2025年4月施行)では、事業者側の防止措置が義務化されており、就業規則の懲戒条項で内部管理体制の実効性を確保することが求められています。
既存の就業規則にカスハラ対策条項を追加する場合、手続きは労働基準法第89条・第90条に基づきます。第89条は10人以上の労働者を使用する事業場に就業規則の作成・届出を義務づけており、変更時には届出が必要です。第90条は変更に際して労働者の過半数代表者(または過半数組合)の意見を聴取し、意見書を添付して労働基準監督署に届け出ることを定めています。カスハラ対策条項の追加もこの手続きに従います。
実装のステップとしては、まず現行の就業規則でハラスメント関連条項(パワハラ・セクハラ)がどのように規定されているかを確認します。既存のハラスメント防止条項に「カスタマーハラスメント」を明示的に加える改定が最もシンプルです。次に、対応窓口・相談フロー・記録様式を別途「カスハラ対応マニュアル」として就業規則の附則または別規程として整備し、就業規則本体から参照させる形をとると運用しやすくなります。
届出後は従業員への周知が必要です。労働基準法第106条は就業規則の周知方法として、常時掲示・備え付け・書面交付・電子データの閲覧可能化のいずれかを求めています。カスハラ対策条項を追加した際は、改定内容と運用ルールを全従業員に説明する機会を設けることが望まれます。
就業規則にカスハラ対策条項を整備した後、実務上の課題として浮かび上がるのが「記録・相談管理の継続」です。被害報告があったとき、日時・内容・対応状況・フォローアップの記録を一貫して残すことは、再発防止と法的対応の両面で重要ですが、担当者が変わると記録が断絶しがちです。
Kabauは会社の就業規則・対応方針・相談窓口の設定をあらかじめ登録しておくことで、相談が入ったとき『この会社のカスハラ対応フローに基づくと次のステップは何か』を整理する補助ができます。記録の項目出し・報告書の下書き支援・過去の対応履歴の参照など、担当者の作業を軽減します。Kabauはあくまで整理・補助の役割であり、個別事案の法的判断や専門家対応の代替ではありません。
相談件数が増えてきた段階では、案件ごとの対応ステータス管理・エスカレーション基準の確認など、運用の継続性を保つための補助としてお使いいただけます。就業規則の条文が『ある』だけでなく、実際に機能する体制として動かし続けるための実務サポートを担います。
サンプルの会社情報を覚えた状態での、回答のイメージです。数値や規程の内容は説明用の例です。 就業規則AIの答えは一般的な情報の整理であり、個別の法的助言ではありません。
うちの就業規則にはハラスメント禁止の条文はあるけれど、カスハラという言葉は出てきません。今すぐ追加したほうがいいですか?
登録いただいている御社の就業規則を確認すると、パワハラ・セクハラ禁止条項は整備されていますね。カスタマーハラスメントは行為者が社外(顧客・取引先)であるため、既存のハラスメント禁止条項だけでは対応が明確にならない場合があります。厚生労働省のマニュアル(2022年2月)でも、カスハラを社内ハラスメントと区別して明示的に定めることが推奨されています。まずは既存のハラスメント条項に『顧客等からの著しい迷惑行為への対応』を一文追記する形から始めると、改定コストを抑えつつ実効性を持たせやすいです。届出手続き(労基法第90条・意見聴取→労基署届出)の準備も併せて確認します。最終的な条文の文言は専門家にご確認いただくことをお勧めします。
カスハラの相談窓口を就業規則に明記したいのですが、窓口担当者が不在のときの対応はどう規定すればよいですか?
御社で登録されている相談体制の設定を参照すると、現在は総務担当1名が窓口として設定されていますね。担当者不在時の対応を就業規則または別規程で定める場合、一般的には『担当者不在のときは代理対応者(○○部長等)が初期受付を行い、担当者復帰後に引き継ぐ』という補欠フローを明記する方法が使われます。また、記録様式をあらかじめ定型化しておくことで、誰が受け付けても情報の抜け漏れを防げます。代理者の範囲と連絡手段を規程に落とす際の文言案を整理することができますので、ご確認ください。最終的な規程の確定は専門家の確認を経てから届出手続きに進めてください。
厚生労働省が2022年2月に公表した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」は、法律や省令ではなく行政の指針・ガイドラインであり、現時点で直接の罰則規定はありません。ただし、東京都カスタマーハラスメント防止条例(2025年4月施行)のように、条例レベルでは事業者の防止措置が義務化されている地域があります。国レベルでも法制化の議論が進んでいますので、指針に沿った就業規則整備を先行して進めておくことが実務上の備えになります。本ページの情報は一般的な情報提供であり、個別の法的判断については専門家にご相談ください。
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の変更は労働基準法第89条・第90条に基づき、労働者代表の意見聴取と労働基準監督署への届出が必要です。10人未満の事業場は届出義務はありませんが、変更内容を従業員に周知する義務(労働基準法第106条)は規模にかかわらず適用されます。届出書類の様式は厚生労働省のウェブサイトから入手できます。手続きの詳細は管轄の労働基準監督署または専門家にご確認ください。
Kabauは就業規則や対応方針を登録した上で、相談記録の項目整理・報告書の下書き支援・対応フローの確認補助などを行うツールです。実際の被害従業員へのヒアリング・法的措置の判断・専門機関への申請代行といった対応は行いません。あくまで担当者の記録管理と情報整理を補助する位置づけであり、個別事案の最終判断は担当者または専門家が行う前提でご利用ください。
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