就業規則・コンプライアンス

カスハラ対策の義務化に対応する就業規則の整備ポイントと自社チェックリスト

カスタマーハラスメント(カスハラ)対策は、改正労働施策総合推進法の指針整備により企業の義務として明確化される方向にあります。就業規則への記載、社内体制の構築、被害者支援の仕組みをセットで整えておくことが、今すぐ着手すべき実務の第一歩です。

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カスハラ対策義務化の背景と就業規則が問われる理由

カスタマーハラスメントとは、顧客・取引先などの立場を利用した、著しく不当な要求や言動を指します。厚生労働省が2022年に公表した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、企業が講じるべき対策として就業規則等への方針明記が明示されており、この流れを受けて各都道府県でも条例による義務化が進んでいます。東京都では2025年4月施行のカスタマーハラスメント防止条例が全国初の包括的規制として注目を集め、対策を講じる義務が事業者に課されました。

就業規則にカスハラ対策を盛り込むことが求められる理由は、大きく二点あります。一つは、会社として「不当な要求を受け入れない」という方針を内外に示すことで、従業員が毅然と対応できる根拠を作ること。もう一つは、被害を受けた従業員を懲戒や評価で不利に扱わないことを制度として担保することです。方針が口頭や個別指示にとどまると、現場が判断に迷い、被害が長期化しやすくなります。就業規則という会社の最高規範に落とし込むことで、全従業員・全拠点で統一した対応が可能になります。

中小企業では「顧問社労士がいないと就業規則の変更はできない」と感じる方も多いですが、記載内容の方向性を自社で整理しておけば、変更手続きそのものはそれほど複雑ではありません。従業員代表への意見聴取と労働基準監督署への届出が必要ですが、記載項目と文言を事前に固めておくことが、実務上最も時間を要する工程です。

就業規則に盛り込むべき具体的な記載項目

就業規則のカスハラ対策として、最低限押さえておきたい記載項目は以下のとおりです。まず「会社の基本方針」として、カスハラを容認しない旨と従業員の安全確保を優先する旨を明記します。次に「カスハラの定義」として、暴言・長時間拘束・過度なクレームの繰り返し・SNSによる誹謗中傷など、具体的な行為類型を例示します。定義が曖昧だと、現場が「これはカスハラに当たるのか」と判断できず、対応が属人的になります。

「対応手順」のセクションでは、被害発生時に従業員が一人で抱え込まないよう、上長への報告ルートと対応チームへの引き継ぎ手順を記載します。録音・記録の取り方についても、「証拠保全のため録音を行う場合がある」旨を規定しておくと、現場でのトラブルを防げます。続いて「被害者支援」として、心理的サポート(産業医・EAP等への相談窓口)と、被害を報告した従業員を不利益に扱わないことを明文化します。

さらに「取引停止・出入り禁止」などの対抗措置を会社が講じられる旨も記載しておくと、顧客との関係において会社が組織として動けることを対外的に示せます。ここまで盛り込むと就業規則のカスハラ対策条項は1〜2条の追加・改訂に収まることが多く、全体の大幅改訂なしに対応できます。

対応体制の整備:録音・記録・通知のポイント

就業規則に方針を書いただけでは実効性が生まれません。現場で実際に機能させるために、三つの体制を並行して整えることが重要です。一つ目は記録の仕組みです。カスハラの疑いがある対応を行った場合、担当者が日時・内容・対応者名・顧客情報を所定のフォーマットに記録し、一元的に蓄積するルートを作ります。記録が各担当者のメモやメールフォルダにバラけると、被害の実態把握が遅れ、エスカレーションの判断も鈍ります。

二つ目は通知・エスカレーション基準の明確化です。「3回以上のクレーム繰り返し」「15分以上の拘束」「脅迫・侮辱的な言動」などの客観的な基準を設けておくと、現場担当者が迷わず上長に引き継げます。基準がなければ「もう少し自分で対応できる」という判断が被害を拡大させます。

三つ目は証拠保全の準備です。録音についてはプライバシーポリシー上の課題もあるため、顧客への事前告知(「通話内容は品質向上のため録音することがあります」などの表示・音声アナウンス)とセットで運用します。録音データの保管期間・アクセス権限も社内ルールで決めておくと、後日の紛争対応で混乱しません。

番頭がカスハラ対策の運用属人化を防ぐサポート

就業規則を整備しても、日常の運用が属人的になると効果は半減します。「この担当者だけが対応ノウハウを持っている」「記録が引き継がれずクレーム履歴が消える」という状態は、中小企業で特に起きやすい問題です。番頭は従業員情報・契約条件・入退社の経緯といった会社固有の情報を一元的に記憶し、日々の労務上の整理を補助します。

たとえば、特定の顧客からのクレームが複数の従業員に分散して届いている場合、番頭に各従業員の対応記録や雇用条件の前提を共有しておくことで、「誰が・いつ・どの立場で対応したか」を整理する作業を効率化できます。エスカレーションの判断に必要な情報が散らばっていると、管理者が状況を把握するだけで時間を取られます。番頭はその情報整理の手間を減らし、管理者が判断に集中できる環境づくりをサポートします。

また、就業規則の変更に伴い従業員説明や意見聴取の記録を残す場面でも、番頭に会社の組織情報・従業員区分を登録しておくと、「どの対象者に・何を・いつ周知したか」の確認がスムーズになります。顧問社労士への相談が必要な判断事項と、自社内で完結できる手続きの仕分けにも活用できます。

自社対応チェックリスト:今月中に確認すべき8項目

カスハラ対策を義務化の文脈で自社点検する際、以下の8項目を順に確認することをお勧めします。1)就業規則にカスハラの定義・基本方針が記載されているか。2)カスハラ発生時の報告・エスカレーション手順が文書化されているか。3)被害者を不利益扱いしない旨が明記されているか。4)担当者が記録するフォーマット(日時・内容・対応者)が用意されているか。5)録音運用の場合、顧客への事前告知の仕組みがあるか。6)心理的サポートの相談先(産業医・EAP・社内窓口)が従業員に周知されているか。7)取引停止・出入り禁止などの対抗措置を講じる判断基準が決まっているか。8)就業規則の変更があれば従業員代表の意見聴取と労基署届出の予定が立っているか。

8項目すべてに「対応済み」と言い切れる中小企業は多くありません。まず現状の就業規則を開いて、カスハラという言葉が記載されているかどうかを確認するところから始めてみてください。記載がなければ、方針条項の追記から着手する形が現実的です。全項目を一気に整備しようとすると止まってしまうため、1〜3の方針・定義・不利益取扱い禁止を先行させ、4〜8を3か月以内に整えるという順序が進めやすいと考えられます。

番頭はこう答えます

サンプルの会社情報を覚えた状態での、回答のイメージです。数値や規程の内容は説明用の例です。 番頭の答えは一般的な情報の整理であり、個別の法的助言ではありません。

よくある質問

カスハラ対策を就業規則に書かないと罰則はありますか。

現時点では、就業規則へのカスハラ対策の記載がないこと自体に直接の罰則規定はありません。ただし、東京都条例(2025年4月施行)のように都道府県レベルで対策を義務付ける動きが広がっており、指導・勧告の対象となる可能性があります。また、被害を受けた従業員が安全配慮義務違反として会社に損害賠償を求めるリスクは、対策の有無によって変わります。義務化の進展状況は変化しますので、最新の法令・条例を確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。

就業規則の変更は自社で手続きできますか。専門家に頼まないといけませんか。

就業規則の変更手続き(従業員代表への意見聴取・労働基準監督署への届出)は、法律上、社労士資格がなくても事業主が自ら行えます。ただし、記載内容が法令に反していないか、既存の条項との整合性が取れているかの確認には専門知識が必要な場合があります。本ページの情報は一般的な情報提供であり、個別の法的助言や書類作成の代行ではありません。自社の状況に照らした最終判断は、社会保険労務士などの専門家へのご確認をお勧めします。

カスハラ対策の録音は顧客の同意なしに行ってよいですか。

会社が業務目的で通話を録音すること自体は直ちに違法とはなりませんが、プライバシーへの配慮から、事前に「通話内容を録音することがある」旨を顧客に告知することが望ましいとされています。店頭・電話口でのアナウンスや表示の整備をセットで行うことで、証拠保全としての信頼性も高まります。録音データの保管・アクセス管理についても社内ルールを事前に決めておくことをお勧めします。個別の法的判断は専門家にご確認ください。

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