就業規則・ハラスメント対策

カスタマーハラスメント義務化と就業規則への記載義務が生じた背景と、中小企業がいま動くべき実務ステップ

「カスタマーハラスメントへの対策が義務になったと聞いたが、就業規則に何を書けばいいのかわからない」という声をよくいただきます。2024年のパワハラ指針改正が何を求めているのか、そして中小企業が就業規則をどう整備すればよいかを、実務に即した手順でご説明します。

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カスタマーハラスメントが「義務化」された背景と法的根拠

カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)とは、顧客・取引先・クレーマーなど社外の第三者から従業員に向けられる著しい迷惑行為のことです。過剰なクレーム・暴言・長時間の拘束・SNSへの投稿脅迫・身体的な接触といった行為が代表例として挙げられます。

日本でカスハラ対策が企業の責務として明確に位置付けられたのは、2022年に改正されたパワーハラスメント防止指針(厚生労働省告示第5号)への2024年4月の追加的な解釈整理が契機です。もともとパワハラ防止措置は労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法」)第30条の2によって、大企業は2020年6月・中小企業は2022年4月からそれぞれ義務化されていました。2024年時点の指針では、その措置の一環として顧客等からの著しい迷惑行為への対応についても相談体制整備や業種横断的な取り組みを促す記載が盛り込まれており、実務上は「努力義務」として扱われています。

「努力義務だから後回しにしてよい」と考えるのは危険です。義務の性格は努力義務であっても、万が一従業員が精神疾患を発症した場合には安全配慮義務(労働契約法第5条)違反として損害賠償を問われるリスクがあります。また東京都では2024年10月に「東京都カスタマーハラスメント防止条例」が施行されており、都内に事業所を持つ企業は条例上も対応が求められます。こうした積み重ねから、就業規則へのカスハラ対策の明示は全国的に実務の標準となりつつあります。

就業規則に盛り込むべき項目と具体的な記載例

就業規則にカスハラ対策を記載する場合、一般的に以下の4つの柱が必要とされています。第一は「カスタマーハラスメントの定義・該当行為の例示」、第二は「会社の基本姿勢・従業員保護の宣言」、第三は「具体的な対応手順・相談窓口」、第四は「記録の保存と再発防止措置」です。それぞれを就業規則本体またはカスハラ対応規程(附則)として整備します。

<定義・該当行為の例示>の記載例(条文は慣習どおり常体):「顧客等からの著しい迷惑行為」とは次の各号に掲げる行為をいう。①身体的な攻撃(暴行・傷害)。②精神的な攻撃(侮辱・脅迫・長時間にわたる叱責・暴言)。③会社・従業員への誹謗中傷をSNS等に投稿する行為または投稿をほのめかす脅迫。④正当な理由のない商品の交換・返金要求・土下座の強要など社会通念上相当性を欠く要求。⑤従業員のプライベートへの不当な接触(自宅への押しかけ・個人連絡先への繰り返しの連絡)。以上5類型を漏れなく列挙することで、現場がハラスメントかどうか迷う場面を減らせます。

<会社の基本姿勢・従業員保護>では、「会社は顧客対応業務において従業員が安全かつ尊厳をもって働ける環境を確保する義務を負う」旨を明記します。ここが抜けると、従業員が「会社は守ってくれない」と感じてしまい、離職や精神疾患の発症につながりやすくなります。「従業員は不当な要求に応じる義務を負わない」と明示することも、現場の判断基準の明確化として有効です。

<対応手順・相談窓口>は、現場でどの順番に何をするかを番号付きで示します。一例として、①従業員本人が対応限界を感じたらすぐに上司・管理者に報告する、②管理者は対応を引き継ぎ、必要に応じて警察・弁護士への相談を検討する、③相談窓口(社内担当者または外部EAP)に報告票を提出し記録を残す、④会社は72時間以内に初動対応結果を従業員に共有する、という流れが考えられます。相談窓口を「誰が担当するか・何時まで受け付けるか」まで具体化しておくと、規程の実効性が増します。

カスハラの認定基準と「著しい」かどうかの判断軸

就業規則にカスハラを定義したとしても、現場で「これはカスハラに当たるか」の判断に迷うケースは避けられません。厚生労働省が公表するカスハラ対策企業マニュアル(2022年)では、ハラスメントかどうかの判断要素として「要求内容の正当性」と「手段・態様の相当性」の2軸を提示しています。

要求内容が正当であっても(例:商品に瑕疵があったクレーム)、手段が社会通念上相当でない(例:担当者を2時間以上拘束して繰り返し謝罪を求める・他の顧客がいる場前で大声を上げる)場合はカスハラに該当しえます。逆に言えば、要求内容が正当でなくかつ手段も不当であれば、より明確にカスハラとして判断できます。この2軸を就業規則の解説資料や研修資料に追記しておくと、管理職が現場で素早く判断できます。

判断に迷うグレーゾーンの事例は「相談記録票」に記載して蓄積することが重要です。記録が積み重なると、特定の顧客・時間帯・担当者に偏りがあるかどうかが見えてきます。「一度だけなら我慢できる」と放置されがちなグレーゾーン事案でも、記録を通じてパターンを把握することで早期に対策を打てます。記録の粒度は、日時・場所・対応者・要求内容・対応経緯・従業員への影響(精神的負荷の程度)の6項目が最低ラインです。

就業規則整備から運用定着までの4ステップ

カスハラ対策を就業規則に盛り込む作業は、次の4ステップで進めると全体像を見失いません。ステップ1は「現状把握・リスク洗い出し」です。自社でこれまでにカスハラ的な事案が発生していないか、ハラスメント相談窓口への申告件数・内容をまず確認します。業種によってリスクの高さは異なり、小売業・飲食業・介護・医療・コールセンターなどは特に発生頻度が高い傾向にあります。

ステップ2は「就業規則・関連規程の改訂」です。既存のハラスメント防止規程にカスハラの定義と対応手順を追加するか、独立した「カスタマーハラスメント対応規程」を新設します。規程変更には労働者代表への意見聴取と労働基準監督署への届け出が必要です(常時10人以上の事業場の場合)。従業員数10人未満の場合も就業規則を整備しておくことで、トラブル発生時の対応基準が明確になります。

ステップ3は「管理職・従業員への周知研修」です。規程を作るだけでは意味がなく、全従業員が「どの行為がカスハラか」「カスハラを受けたらどう動くか」を理解していなければなりません。研修は規程の配布と読み合わせだけでも効果はありますが、ロールプレイ形式で判断事例を試してみる方が定着率が上がります。年1回以上の実施が望ましいとされています。

ステップ4は「相談・記録の仕組みの整備と定期見直し」です。相談窓口を設けたとしても、記録が担当者のメモや個人フォルダに散在してしまうと実態把握ができません。誰がいつ何の相談をしてどう対応したかを一箇所に集約し、定期的に集計して対策の見直しに活かす仕組みが必要です。少なくとも半年に1回は集計し、再発防止策を検討するサイクルを就業規則または規程に明記しておくことで、形骸化を防げます。

番頭を使ったカスハラ対策の実務管理と活用イメージ

番頭は、就業規則・カスハラ対応規程・過去の相談記録といった自社の情報を登録しておくことで、「今回の対応は規程のどの手順に当たるか」「記録票にどう記載すればよいか」という整理を補助します。担当者が異なっていても、番頭に登録された前提情報をもとに一貫した確認ができるため、属人化の防止につながります。

たとえば「顧客から1時間以上の電話対応を強いられた」という相談があった場合、登録済みの対応規程を参照しながら「手段の相当性」の確認軸・記録票の記入項目・上司への報告タイミングを整理して提示できます。番頭はあくまで情報整理と確認のサポートにとどまり、「これはカスハラです」という法的判断は行いません。個別事案の最終的な判断や法的対応は、社会保険労務士・弁護士など専門家にご相談ください。

また番頭には「月次でカスハラ相談の件数・業種・対応結果を集計したい」「規程の改訂履歴を残したい」といった管理補助の用途でも活用できます。就業規則の改訂案を番頭に質問する際に、「現在の規程はこの内容です」と登録情報を前提にして確認できる点が、一般的なAI検索との違いです。自社の前提を毎回説明し直す手間を省き、担当者の作業負荷を下げることが番頭の主要な価値のひとつです。

番頭はこう答えます

サンプルの会社情報を覚えた状態での、回答のイメージです。数値や規程の内容は説明用の例です。 番頭の答えは一般的な情報の整理であり、個別の法的助言ではありません。

よくある質問

カスタマーハラスメント対策の義務化は、中小企業にも適用されますか?

パワーハラスメント防止措置(相談体制の整備等)は、中小企業についても2022年4月から義務化されています。カスハラへの対策はその防止措置の延長として努力義務として位置付けられており、「中小企業だから免除される」という規定はありません。また東京都では2024年10月施行の条例により都内事業所への対応が明確に求められています。努力義務であっても、対応を怠って従業員が精神疾患を発症した場合には安全配慮義務違反(労働契約法第5条)として損害賠償リスクが生じることがあります。実務的には、早期に就業規則と相談体制を整えることがリスク管理の基本といえます。

番頭はカスハラ対応規程の草案を作成してくれますか?また法的に有効な規程になりますか?

番頭は登録された自社の就業規則や業種・従業員規模の情報をもとに、規程に盛り込む項目の整理・記載例の確認・改訂の手順案の補助をすることができます。ただし番頭は一般情報の整理を補助するツールであり、書類作成代行・法的助言ではありません。規程が労働基準法・パワハラ防止法・東京都条例等に照らして適切かどうかの最終判断は、社会保険労務士や弁護士にご確認いただくようお願いします。本LPに掲載している内容も一般的な情報提供であり、個別の法的助言を目的としたものではありません。

就業規則にカスハラを記載する際、どのくらいの粒度で行為を列挙すればよいですか?

厚生労働省のカスハラ対策企業マニュアルでは、身体的攻撃・精神的攻撃・SNSでの誹謗脅迫・過剰な要求・プライベートへの不当接触の5類型を参考として示しています。就業規則への記載は、この5類型を「例示列挙」として明示したうえで「その他社会通念上相当性を欠く行為」という包括文言を末尾に加えると、想定外の行為への対応も可能になります。具体的すぎると想定外の行為が抜けるリスクがあり、抽象的すぎると現場が判断できないため、類型の例示+包括文言の組み合わせが実務的なバランスです。記載内容の適法性については、社会保険労務士に確認することをお勧めします。

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